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ブログ掲載版「徳之美人名鑑−愛の奏−」

ああ

徳之美人名鑑−愛の奏−

 
ご無沙汰しておりました。
庵を結んでからは、
春雪庵(しゅんせつあん)と改名したはずなのですが、
全然浸透しないので、翔太郎でいいです。
やがてまもなく、一児の親父になるまでは、
やんちゃで女運の無い、翔太郎坊やを思い浮かべて下さい。
いっそ、一人称も「僕」でいきましょう。
  
僕は現在(いま)、いっぽんの簪(かんざし)を、
とても複雑な表情で手にしています。
僕が拵(こしら)えたものじゃありません。
妻の作品なのですが、端材や不要物などを焼却するため、
庵の裏手に掘ってある穴の中に、
捨ててしまおうかと思案している状況です。
 
まず、説明しましょうか。
此処のところ、妻の愛(めぐみ)の彫作が変なのです。
いや、まあ以前から、感性の合わない部分はありましたけど、
身二つになってからは、とりわけ顕著なのです。
たとえば、いま掌中にある一振り、
春の麗(うらら)を写し取ったものだそうですが、
タラの芽を摘むとき、指先が棘に触れて、
しかめっ面した瞬間の調べだとか何とか。
 
ワケがわからない。
  
この際ですから、感性云々をいうのはやめましょう。
この簪(かんざし)の重心がどうしようもない。
人差し指の先で支点を取ってみても、
簪(かんざし)の足が不規則に湾曲しているせいで、
用を成していない。
図柄は個人の趣味に因るものと思うが、
簪(かんざし)として使えないのは、
誰しも不良品であると納得するものでしょう。
  
おおよその形状は、薬玉(くすだま)と呼ばれる、
玉簪(たまかんざし)の種で、
飾り玉自体が重いから、余計に扱い難い。
妻は奏(かなで)と、
若い女性のような名前で呼んでいました。
何かこう、不思議と情のようなものが、
沸いてくるじゃありませんか。
自分でなく、連れ合いの作った品であるなら尚更です。
金工師ならずとも、年に幾つも工作に向き合っていると、
稀に常識から逸脱した、破天荒なものを形にしてみたいと、
思うことがあるのです。
たとえそれが、売り物にならない姿になったとしても、
破棄して無かった事にしてしまったら、
工作に向き合った時が、まったくの無駄になってしまう。
長々と理屈を語ってしまいましたが、
すでに僕は、奏(かなで)を手元に残しておこうと、
心に決めているらしい。
何より、身重の感性は、
男では辿りつけない境地でもあると思う。
  
春の足音..  薫風(くんぷう)の色あい..
 
麗光(れいこう)の匂い..
 
これらすべて、僕には表現しかねる題材である。
ひょっとしたら、奏(かなで)と語らううちに、
いつの日か、理解できるようになるかも知れない。
そんな思いに駆られ、愉しみながら、
僕は奏(かなで)を懐中に忍ばせる。
  
ふと、冒頭で、妻への憤りに狂った自分自身を回顧して、
苦笑を禁じえない。
何故、それ程までに憤慨していたのか、
それも説明しましょう。
僕が奏(かなで)を捨てようか、思案に暮れていたとき、
妻が、こう言ったのです。
 
「あなた、幾ら何でも、
 使い物にならない簪(かんざし)は、作っちゃダメよ。」
  
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