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ブログ掲載版「徳之美人名鑑−愛の簓−」

2018年4月に配布したUO本のブログ掲載版です

※原本がわからないため未確認なのですが
 簓(ささら)の創業年を30年前⇒60年前に変更しました
 すでに彼女は他界していて計算が合わないからです
※S様に問い質したところ15歳で身篭った計算していたそうです
 それだと3代目が13歳くらいになってしまうのでやっぱり変
 原作のほうは修正するまでもないかくらいの案件
 

徳之美人名鑑−愛の簓−

 
卯月の初め頃、翔太郎と連れ立って、
禅都まで細工道具を買い出しにやって来た。
寒の戻りもある、予断許さぬ季節だが、
その日は兎角、暑かった。
なまじ茶店で涼をとったものだから、
昼のかかりに、ふたたび炎天下に出ると、
愛(めぐみ)は10間も行かないうちに、
立ち止まってしまった。
 
「いったん、茶店まで戻ったほうがよい。」
 
「一人で大丈夫です。それより翔太郎さん、
 私の買い出しまで押し付けてしまって、
 申し訳ありません。」
 
ところが踵(きびす)を返してまもなく、
禅都の風景が回った。
和傘を持つ手の平が、じわりと汗ばんで、
地面から立ちのぼる、陽炎(かげろう)が揺らめく。
どのくらい長く、立ち尽くしていたのか、
それもわからない。
振り返れば、翔太郎の姿はすでになく、
往来(おうらい)の喧騒(けんそう)も、
遠く感じられた。
ふと右手を見遣れば、店舗と店舗の間に、
路地ほどもない狭い通路があって、
見るからに涼しげな日陰が目についた。
 
次に意識を戻したとき、愛(めぐみ)は日陰に座り込んでいて、
年頃同じくらいの娘に、何やら介抱されているようだった。
 
「気がついたかい?これを舐めなさい。」
 
右手には、湯冷ましが満たしてあるらしい湯飲みを手にしていて、
目の前に出された左手の甲には、赤茶色した粒が、
ひと摘みほどの山をなしている。
 
「すみません…。私、お腹に赤ん坊が。」
 
拒む理由を懸命に伝えようとするが、
ひと摘みを自分の口に放り入れると、
少し顔を顰(しか)めさせる。
 
「心配いらないよ。ただの塩だから。」
 
それから二人、微かに笑い合い、ふたたび眠りにおちてのち、
今度目を醒ましたときは、昼にいた茶店だった。
口の中にしょっぱさが残っている。
あの日陰通路は、夢の中の出来事ではないようだ。
店の売り子に尋ねても、付添い人らしき者は、
憶えがないようだった。
そうこうするうち、翔太郎も戻ってきて、
一部始終を知るや、身体の安否を気遣い、
何はさておいても、家路を最優先した。
  
世話になった店には翔太郎が後日、訪ねてみるのだが、
茶店の周辺に、人が休めるような隙間のある路地が見当たらない。
店舗の格子木(こうしぎ)と犬矢来(いぬやらい)が続いていて、
暑気払いに中へ逃げ込むのも、一苦労だとわかる。
 
ふと、店の看板を見る。
【ささら秘薬店】
愛(めぐみ)を介抱してくれた娘が、名乗った名前に出会う。
 
格子木(こうしぎ)を辿りつつ、六間向こうを右に折れ、
店に入った翔太郎が、秘薬店の女主人に、昨日の経緯を話した。
 
「簓(ささら)は、秘薬店を創業した先代の名でございます。
 
 子供の頃からお隣同士で、
 治療院を経営する旦那様と縁を結んだのを契機に、
 現在の大きな建屋に改装したそうです。
 
 もう60年も昔の話です。
 
 当時の名残りで、現在でも幾らか、
 寝床を敷いてあるのが見えるでしょう。
 
 あなたの奥様も、此処でお休みすればようございましたのに。
 ああ、ちょうど昨日は。」
 
少し気不味そうに、女主人は唇を歪めた。
 
「私の娘(三代目)も、
 まだまだ頼りないと言うところでしょうか。」
 
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