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ブログ掲載版「徳之美人名鑑−愛の雛−」

2018年3月に配布したUO本のブログ掲載版です

   

徳之美人名鑑−愛の雛−

  
春雪庵(しゅんせつあん)に住いして、
三度目の春を迎える。
さすがに今年からは、山の古老に頼らず、
雛の節句をお祝いしてあげようと思っています。
 
愛(めぐみ)は井戸に保存してある、
酒糟(さけかす)を引きあげてきて、
沸かしておいた湯にふやかしておく。
山暮らしでは冬が来る前に、
禅都の酒房から酒糟(さけかす)を分けてもらい、
漬物の床にして、大根や青菜などを保存するのに利用する。
長い冬籠りに備えて病を患わぬよう、必要な知恵だった。
米糠(こめぬか)と違い、
酒糟(さけかす)は毎年替えるため、
春になり、余った酒糟(さけかす)は甘酒にして、
山の子供たちに振舞われるのである。
ちなみに雛の節句は、男の子も女の子も分け隔てなく、
家々を訪ねてくる子供たちに、甘酒が勧められる。
女の子のお祝いとして印象が根強いのは、
甘酒を供する過程で、母親から厨(くりや)仕事を、
みっちりと仕込まれるからだろう。
 
そうは言えど山暮らし。
身構えるほどの喧騒はあるはずもない。
過去2年は一人二人ほどしか、
春雪庵(しゅんせつあん)を訪ねてくる子供の姿もなかった。
 
「いらっしゃい、雛(ひな)ちゃん。ゆっくりしていってね。」
 
愛(めぐみ)が山で子供たちを迎えるようになってから、
毎年訪ねてくる、沢向こうに住まうマタギ猟師の子である。
春雪庵(しゅんせつあん)には、
笄(こうがい)や花簪(かんざし)の他にも、
多様な彫細工が並んでいるため、来訪客を惹きつけた。
 
愛(めぐみ)が厨(くりや)で甘酒を用意して、
囲炉裏端(いろりばた)に戻ると、
はたして、子供の数が4人に増えている。
なんとまあ、今年は賑やかしいことだと嬉しさも綻(ほころ)び、
愛(めぐみ)は急ぎ、人数分の甘酒を取りに行った。
 
何処に住む子だろう?
 
山菜採りに禅都から山家(やまが)へやって来た、
親戚筋の子だろうか。
 
詮索するのも、はしたないもの。
何より初めて、自分ひとりで拵(こしら)えた越冬の甘酒を、
試してもらえるのが、愉しみでしょうがない。
 
「愛(めぐみ)さん、濃ゆい.. これ、濃ゆい!」
 
ひと頻(しき)り、遊ばせておいたあとで、
お代わりを勧めてみると、
雛(ひな)ちゃんが、赤みのさした頬に両手のひらを当てて、
ごろんと横寝(よこね)する。
 
「あらあら、ごめんなさいね。」
 
何事も、初めては上手くいかないもの。
そもそもの話、料理事に関しては忌憚(きたん)なく評価しない、
あの人(翔太郎)もよくない。
表の残り雪を拾ってきて、顔に当てるなど介抱するうち、
ふと雛(ひな)ちゃん以外の3人の姿が、
失せているのに気づく。
 
「他の男の子とか女の子なんていないよ。
 甘酒が濃ゆかったのと、
 あと.. こんなに.. ひとりで飲めない。」
 
囲炉裏端(いろりばた)に置かれた、
ぐい飲み茶碗の中に甘酒は残っていない。
愛(めぐみ)はまた、身二つになってからの、
不思議な来客に思い巡らせていた。
 
ふと作業机の上の、紙人形飾りが目に止まる。
あの人(翔太郎)が今日のために、
藁紙で折ってくれた"やっこさん"が3つ。
光の加減か、ほんのり薄桃色に染まった人形飾り、
3つのうち2つまでが、
雛(ひな)ちゃんと同じように横になって、
目を回しているように思えて仕方なかった。
  
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