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ブログ掲載版「徳之美人名鑑−愛の華−」
  

2018年1月に配布したUO本のブログ掲載版です

 

徳之美人名鑑−愛の華−

 
しんしんと降り続く雪の小径(こみち)を、
妻の愛(めぐみ)は、傘を手に歩いていた。
道すがら、寺住いの老爺(ろうや)に出くわし、
すれ違い頭を下げる。
老爺はお辞儀を返し、訝(いぶか)しく首を傾(かし)げた。
このような場所に、女ひとり在(あ)るのが、
奇妙に思えたのだろう。
 
やがて、木立(こだち)の開けた場所までやって来ると、
空と地の境も見分けのつかぬ、
一面の雪景色の中に膝を折った。
雪のない普段なら、そこには無数の土まんじゅうがある。
愛(めぐみ)は懐中(かいちゅう)から、
綿繻子(わたしゅす)を取り出し、
花簪(かんざし)を翳(かざ)してみせる。
 
「これを、私に?」
 
いつしか傍(かたわ)らには、
10歳くらいの可愛らしい女の子が佇(たたず)んでいた。
おかっぱ頭で、まだ髪結いには長さが足りない。
それでも花簪(かんざし)を受け取ると、
嬉しそうに雪の上を飛び跳ねている。
娘は愛(めぐみ)が、まだ簪(かんざし)工房にいた頃、
近場に住いする水替衆(みずかえしゅう)たちの、
ててなし児(ご)だった。
水替(みずかえ)は鉱山労働に従事し、
湧き水を桶で代わる代わる掻き出す、雑用人夫のこと。
ててなしは父無しで、長屋の誰が男親かもわからない、
そういう意味である。
甚(はなはだ)しくは、
名前を尋ねても首を傾(かしげ)るばかり。
季節が移ろうごとに、仕事を求めて、村から村へ旅する、
渡り人足(にんそく)の溜まりには、
似たような境遇の子供がたくさんいた。
その女の子もまた、愛(めぐみ)のいる工房前にやって来ては、
往来(おうらい)越しの向こうから、
出入り客の挿す花簪(かんざし)を眺めては、
羨(うらや)ましげに俯(うつむ)く、
そんな日々を送っていた。
 
ある昼下がり、得意先の大店(おおだな)に届け物した帰り道、
くだんの女の子と会話したのが、最初で最後だった。
女の子は言う。
 
「明日から奉公(ほうこう)するの。
 年季(ねんき)が明けて、お給金もらえるようになったら、
 花簪(かんざし)をひと挿し、作ってくれる?」
 
それから数年が経ち、女の子の消息すら絶えて久しくなった頃、
何故か愛(めぐみ)は、この場所で、あの女の子が、
花簪(かんざし)を待っている。
そんな気がしてならなかった。
 
「あの.. これ.. 全然、足りないけれど。」
 
ひとしきり駆け回ったあとで、女の子はおずおずと、
幾らかの銭を差し出す。
愛(めぐみ)は、銭を乗せた女の子の手を握り、
そっと突き返す。
 
「これは、大切なものよ。
 舟賃のために、とっておきなさい。」
 
自分の境遇を知ってか知らずか、
あどけなく首を傾(かしげ)る仕草は、あの頃のままに、
ひどく胸を打たれる。
 
「あたしね.. 名前をつけてもらったのよ。」
 
別れ際、そう告げた女の子は、
もはや雪景色の中にいなくなってしまった。
愛(めぐみ)は、手を合わせのち、家路につく。
山門を抜けるとき、またすれ違いに、
あの老爺(ろうや)へ挨拶をする。
 
「年に一度.. いや、何年かに一度、
 あのような光景に出くわすものじゃ。」
 
髪結いの頃を待たず、世を去った少女たちを埋めた墓地がある。
名も無き墓碑を憐れんでか一様に、
華(はなり)と、そう呼ばれている。
 
 
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