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ブログ掲載版「徳之美人名鑑−椛の章−」

 

2017年9月に配布したUO本のブログ掲載版です
  

「徳之美人名鑑−椛の章−」

 
おねえちゃん
痛いよぅ.. 足が痛い
 
ごめんね ごめんね
 
おねえちゃんは
あたしのぶんまで
たんと長生きしてね
 
 
秋の長雨により、禅都郊外の谷川で土砂崩れが起きた。
復旧工事はされたが、記憶の片隅に残る小さな稲荷の社は、
跡形もなく失せていた。
近在の人夫たちは、すでにいなくなっていたが、
翔太郎は鍬を手に、
いまだに社があったと思しき堆積土の辺りを掘り返している。
或るとき、女がひとり、握り飯を持ってきた。
 
「めずらしいもんさね。
 いまだに、川縁を掘る若衆がいると聞いた。」
 
翔太郎は片手間に、小さき社の話をする。
 
「昔日、家出するたび、
 此処に在ったはずの社で夜を明かしました。
 いざ、失くなってみると、寂しく思えましてね。」
 
「この界隈は昔から、子供が神隠しに遇うと噂された場所です。
 お前さんは幼心(おさなごころ)に、怖くなかったのかえ。」
 
不思議と彼には、恐怖した記憶がない。
代わりに、いつも社で一緒に遊んだ、
小さな女童(めわらべ)の姿が思い出される。
家から持ち出してきた砂糖菓子を分け合い、
手毬唄を踊(なら)う。
 
名前はわからない。
 
いつだったか、迎えに来た姉様に必死で訴える様子が、
鮮明に広がる。
 
 
おねえちゃん
この子は違うよ
連れていっちゃダメ
 
 
かつて下社に、年の離れた姉妹が流れてきた。
初め、供え物を偸(ぬす)んで飢えをしのいだが、
齢(よわい)100を重ねた姉は、人を喰うようになる。
妹も化け狐になれば、空腹から逃れられる──
そう信じていた矢先、猟師が仕掛けた虎挟みに足を砕かれ、
妹は痛みに震えたまま、死んでしまった。
 
女の昔語りを聞くうち、微かな頭痛をおぼえ、
足下にうずくまると、何やら石仏のようなものが埋まっている。
果たして、ひと抱えの石塊だった。
幼狐が一匹、尻尾を丸めた姿に見えなくもない。
 
「それで、ようござんす。
 あちきの求めていた、探し物でおざんす。」
 
女は、やをら駆け寄り、大事そうに石塊を抱く。
 
「鳥居や賽銭箱など、そんなもの要りませぬ。
 この子を人足届かぬ山奥の上社に、奉ってやりとうございます。」
 
 
楓(かえで)おねえちゃん
翔太郎くんを連れて行かないで
 
食べちゃダメだよ
おねえちゃん
 
 
翔太郎は、遠い昔に、
眼前の女と出遭っている気がしてならないのだが、
どうしても、思い出せなかった。
 
「齢(よわい)100の長きを生きて参りましたが.. 」
 
去り際に女は、一度だけ翔太郎を振り向いて、
懐かしげに頬を触れた。
 
「初めて、仏道とやらの『因果』に『報い』を、
 識(し)る思いでおざんすなぁ。」
 
気づけば女は、山の麓まで達している。
 
「人を喰う『因果』が、
 妹狐を失う『報い』にたどり着いたことを、悟れていれば.. 」
 
女は頭を左右に振り、
恨みの句を打ち消した。
 
「椛(もみじ)の思い出を、ありがとう。」
 
不意に翔太郎は、女童(めわらべ)の名を思い出す。
あの姉妹には、二度と遇えない気がした。
 
 
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